でもネ やっぱりキミが好き♪
      〜かぐわしきは 君の… 7

     5



神宮外苑は、
四ッ谷の国立競技場や神宮球場などが集まる一帯が有名で。
特に、青山通りから
ドーム天井が特徴的な聖徳記念絵画館を半ばに据えて、
長々連なる散歩道へと植えられたイチョウ並木の景観は
それは見事なことで有名。
どの木も樹齢は百年近く、
紅葉の時期には
天蓋となるほどの高見にある梢から並木が連なる舗道という足元からと、
一帯が延々と金色に埋まるほど壮観だそうで。


 「わあ、都内でパースが取れる土地があろうとは。」
 「パース?」

 えっと遠近法のことだよ、
 ほらキミんトコのダヴィンチさんが大々的に広めたっていう。

気もそぞろになりかかるほどのやや興奮気味に、
でもそれは嬉しそうに。
絵を描く上での専門用語を語るブッダなのへ。

 「そ、そうなんだ。///////」

意味の方は半分も判らなかったけれど、
潤みの強い深瑠璃の双眸を大きく見張っての
その笑顔の目映さに呑まれ、そっちはどうでもいいやと
でもでも、間違いなく心からの“嬉しい”気持ちで
こちらも満面の笑みを零したイエスだったりし。
その内心を覗いてみれば、

 “機嫌が直ってくれて良かったなぁ…。”

なぁんていう、海ほど深い安堵の籠もったそれ、
随分としみじみした呟きが聞かれたりするものだから。

  ……そうか、また何かやらかしましたね、イエス様。(苦笑)



     ◇◇


少しほど遠出となるこちらの外苑公園まで、
それは見事と噂のイチョウ並木を一緒に見に行こうという話自体は、
何が起きるでもない前から通じ合わせていたお二人で。
近所の神社の境内で、
それは鮮やかな真黄色の絨毯を見たものだから。
じゃあ何十mもという長さがあるという並木道だと
それはもうもう絶景なのだろうねと、
それぞれで期待も膨らませの、
では週末にでも行ってみようかなんて、具体的な話にもなりかけてはいた。
会社だ学校だに通っていてという束縛のある身でなし、
明日にでも出掛けようという即断なプランだって、
立ててのすぐさま実行に移せる彼らであり、

 『でも週末って連休だよね。』
 『あそっか、人出が多いかなぁ。』

祭日や連休だと
それを見越したイベントや出店もあるかもしれない。
となれば、込みようも半端ないかもという予測もありつつ、
でもでも、そのくらいの日程が
色づきといい出掛けるのにいい気候なのといい、
申し分のない頃合いだしねと、真っ当な見解もありので。
ささやかな難関が気になりつつも、
のんびり構えた話として、
まだ微妙に決めかねていたところだったのだが。

 「?」

今日は薬局の栄さんで会員様のみ限定という売り出しがあったので、
売り切れごめんという目に遭ってもなんだからと、
午前中に買い物に出たブッダ様。
新発売のコンパクト洗剤を半額で手に入れられて、
しかも新物の青々としたほうれん草も安い出物があたったと、
ホクホクと戻ってきたものの。
アパートの駐車場に所在なげに佇んでいるちょいと大きめのガチョウを見つけ、
あれれ?と綺麗な双眸がやや曇ってしまったのは、
ある意味、哀しき習性というか刷り込みというか。(苦笑)

 “梵天さんが来ているのか?”

立像でそれに乗ってるものが多い以上、本当に乗ってらっしゃるらしいのだが、
あの雄々しい身でこのそれほど大きいとはいえない鳥に跨ってるのって、
そのうち動物愛護関係の誰かに通報されるんじゃなかろうかと思いつつ。
いやいや、それどころじゃあなかろうよと、
少々早足になって松田ハイツの二階へと急ぐ。
年末や冬の号へという原稿依頼は受けてはないが、
どんな突発的な思い付きから特別号を出すのどうのと言い出すものか、
はたまた、ギリギリの日程という苦行がらめでという格好で、
ブッダの負けず嫌いなところを突付いてくるか。
目的とする原稿を得る為には、どんな手段でも講じてしまえる
口八丁手八丁な編集さんなので油断がならぬ。
それに、

 “どうもこのところ…。”

素直で警戒心の薄いイエスへと
親しげなちょっかいを出してくる梵天氏でもあるような気がしてならぬ。
それも、同居人として間近な存在ゆえに、
彼を振り回せばそのままブッダをも振り回せるというよな、
人の悪い目論見からだけとも思えぬような。
そんな手には乗りませんよなんて自惚れて知らん振りをしていては
何かしら手遅れとなるやも知れないぞと感じさせるような、

  …って、
  どんだけ信用されてない“守護神”なんでしょうか、それ。(笑)

自宅なんだからノックもあるまいと、
肩口へ引っ掛けたトートバッグの提げ手を直しつつ、

 「ただいま〜。」

見慣れたドアを開けたれば。
外よりは断然暖かい室内からの、話し声や和やかな気配が玄関まで直接届く。
土間には男性用のしっかとした革靴が揃えられており、
それを見るまでもなく聞きなれた声がしてのこと、ああやはりと
来訪者がイエスと何やら愉しげに話しているのが手にとるように察せられ。

 “イエスには警戒されてはないものね。”

そも、振り回すなんて畏れ多い天乃国の重鎮
…というか、主幹にあたる格の“神の子”なだけに、
ブッダへと時たま向けるような、気安い(?)挑発なんてとんでもない話だし、
そんなことをする必要自体がそもそもないわけで。
そこへもってきて、イエスがまた、
いつぞやのブッダの高熱騒ぎの折以来、
その手際のよさから、頼もしいなぁとすっかり信用しておいで。
というわけで、
自分が不在の間に、行き違いという格好で訪のうたらしい梵天が、
本来の面会相手のご帰還を待たせてもらう間、
こちらとも結構親しくなっておいでのイエスと
他愛のないことを肴に、時間つぶしの談笑を構えていたようで。
そんな流れになったのは別段構わない。
和やかな空気となっているのも悪くはない。
ただ、

 「…という顛末となってしまいましてね。」
 「ああ、でも それは判ります。…あ、お帰り、ブッダ。」

くすすと微笑ったイエスが、
コタツの定位置という六畳間の奥向きから
戻って来たこちらへお帰りと言いつつその笑みを濃くし。
こちらへ横顔を向ける位置に座していた
相変わらず堅苦しいスーツ姿の天部の偉丈夫までもが やはり、
この男には珍しく、目許までたわめての笑顔になるところから察するに、

 “…これって。”

話半分ではあるが、そこは洞察力に秀でてもおいでのブッダ様、

 「甘えたいんだけれど、何か意地が出てしまうんですよね。」

梵天の言いようへ、

 「そう、子供なりの意気地というものがあるのでしょうね。」

ふふと、何とも微笑ましいというお顔になったイエスであり、
どうやら話題になっているのは、
年端もゆかぬ子供のことであるらしく。
何かしら、一丁前に我を通しての意固地さを発揮しているその子に対して、

 「大人から見れば、色々と透かし見えてそこもまた可愛らしいのですが。」
 「ええ、判ります。」

生意気だの小癪なだのという揚げつらいではなくて、
愛おしいものへの慈しむような、
温かい話しようと笑みなのだという察しもついた。
ただ、決して悪気は無さそうな雰囲気ながら、
それでも何とも言えぬ居たたまれなさをブッダ様が感じたのも無理はない。

 “それって…”

この二人に共通する知己なんて限られているし、
しかも“子供”となると 今現在の顔見知りの中には該当者なんていないから。
となると、

 “私を肴にしているんだね。”

いやまあ、ようよう考えればそれも致し方のないこと。
イエスが天界にいたころだって、
その居場所は浄土と天乃国という形で距離のあった彼らであり。
今は今で、地上と天界、
日頃からさほど顔を合わせてまではいないので、
意気投合するよな話題をとなれば、
どうしたって共通の知人、
すなわちブッダのことを訊いたり訊かれたりともなろう。

 “まったくもう。”

人が居ない間に何を勝手に盛り上がっているのやら。
本人が戻って来ているというに、まだまだ話は尽きない雰囲気だとあって、

 「ちょっとそこ、何を肴に盛り上がっているのかな。」

流し台の上、配膳・調理用の空間へトートバッグを降ろしつつ、
こんな一言を 堅い声音で告げることで。
皆まで聞かずとも判るんだからね、いい加減にしときなさいよと、
やや怒っておりますとの意を乗っけてしまえるところが、
さすがは仏門開祖にして深き教えの伝導者。

 「う…。」

たちまち、
仏のお顔のカウントダウンかと感づいたらしきイエスが
まずは最初に口を噤んだものの、

 「大人げないですね。たかだか幼少期のお話でしょう。」

嘘八百を並べているわけでなしと、そちらは余裕の天部様で。
確かに仰せの通りですがと、ブッダもそこは否定もしないまま、

 「梵天さんこそ、こんなところで油を売ってていいんですか?」

そもそも何の御用でお越しなのですかと、にべもない言い方をする。
ああこれは虫の居所が悪いのだなと、
素人にだって判るような聞き方だのに、(何のだ)

 「用も何も、あなたのお顔を見に来ただけです。」
 「な…。」

いつも原稿の依頼を抱えて来るものだからか、
シッダールタせんせいの怖いお顔しか拝してませんので。

 「用向きがあったついで、お伺いしたまでのこと。」

しゃあしゃあと言ってのける辺り、さすがは天部様で一枚も二枚も上手。
いけませんでしたかと、逆に訊いたところで勝負あったか、
ぐうと言葉に詰まってしまったブッダだったものの……。








 「ブッダ、怒ってるの? 出て来てよぉ。」

結句、イエスと梵天の会話にも加わらず、
そのままキッチンスペースへぐりんとその身を向けてしまった彼で。
食事の下ごしらえにかかり始めた背中だと、
気づいたのはイエスが先だったが、

 『…おや。長居をしてしまったようですね。』

梵天もまた、
彼の場合、空気を読めないことに定評があったはずが、
何も語らぬ誰かさんの背中が妙に素っ気ないと気づいたものか。
そこは付き合いの長さから、あまりよろしくない雲行きだとの判断をしたらしく。
それは手際のいい立ち上がりようをし、
コートをまとうと、ではとまずはイエスへ手短に会釈を残し、
ちょっと怖い沈黙を保っていたブッダの背後を素通りすると、

 『ではまた後日に。』

これは二人へというご挨拶か、姿勢正しく告げられたあと、
お返事も待たずに退出なされて……今へと至るという按配で。
昼食はコーンとキヌサヤ、キャベツもたっぷりの、
こく深いクリームシチューとオムライスだったようで。
綺麗なレモンの形をしたオムライスはだが、イエスの分だけを焼いたのみ。
それらを黙々と手がけ、
千切りレタスと線キャベツ、薄切りキュウリにトマトを盛った
それは綺麗なサラダも添えられた一式をコタツの上へ並べると、
そのままトイレへ直行したブッダだったので、
途中で口を挟めなんだのを深く後悔し、
このお怒りは相当なものだとの覚悟もしつつ。
イエスにとっても天岩戸、
お陽様のブッダ様、どうか出て来てくださいと
懸命に話し掛け続けておいで。

 「ねえ、一人でご飯は寂しいよ。」

 「……。」

いつもならこう言えば仕方がないかと折れてくれるものが、
やはりドアは開かぬまま。

 “う〜〜。”

実のところ、いまだに何がブッダを怒らせたのかが
ピンと来ていないものだから、イエス自身へも始末が悪い状況なのであり、
切れ長の目許を困ったという角度に下げての、ただただ困惑しておいで。

 “どうしたのかなぁ。
  梵天さんと仲良くしていたから拗ねちゃったのかなあ。
  言い負かされてムッとしたのかなぁ。
  でも、そんな子供みたいなこと、ブッダが思うかな。”

そうそういつも喧嘩腰という訳でもない。
原稿という禁句さえ言い出されなきゃあ、
そう、こちらへ所用で来ていてのついでにと寄られたりしたおりは、
彼が持ち出す天界での近況話を、
ブッダもお顔をほころばせて聞いていたりもしたのだし。

 「…あ、そうだ。
  あのね、お風呂屋さんに預けたあの子猫たち、
  おじさんにすっかり懐いててね。」

洗濯物を干してたら、丁度おじさんが通りかかって、
あの子たちやお孫さんやに可愛がられてるって…と。
別な話題を持ち出してみたところ、

 「…そういえばあのとき、」

そんなお声がドアの向こうから、籠もったように聞こえて来て。
ああやっと話してくれたとホッとしたのも束の間のこと、

 「君って、わたしまで理解のない大人だと思ってたわけだよね。」
 「…え?」

 だってそうでしょう?
 あの子たちと一緒になって仔猫を匿ってること、
 私へはひた隠しにしての内緒にしていたじゃない。

そうという指摘をされて、

 「あ…。」

言われるまで、そうなのだということにさえ
気がつかなかったらしいイエスの零した小さな声に、
それこそ…子供ゆえという幼さ、迂闊さを感じなくもなくて。

 “…また、私のほうが悪いのかな、これって。”

大人げない大人という格好で、責めはこちらにあるとされることなのだろか。
そういや昨日もそんな風な話をしたような気がするし、
イエスの無邪気さはむしろ長所で、
それこそそこを愛でていた自分ではなかったか。

 “それはそうなのだけれど…。”

そうそういつも余裕でいられる自分じゃあないと、
ああこういうところが、打たれ弱いのだなと。
そんなところへまで想いが及んで、
自己嫌悪から、はあと重い吐息を零しておれば、

 「……ブッダ? どうしたの?苦しいの?」

よほどに耳を澄ましておいでか、
こちらの零した重々しい溜息、
しっかと拾ったイエスであるらしく。

 “…ああもう限界かな。”

こんなことをしたって 何の解決にもならぬ。
何をしてほしいのかさえ告げていないのでは、
察しということに疎いイエスには為す術もなかろうて
…というところまで察することが出来る自分なのが、
今日ばかりは疎ましいと思いつつ、

 「……。」

こんな拗ねようをしたところで、
自分だって寂しいばかりだというの、
口惜しいが認めてしまう他はなくて。
ムカムカと腹立たたしかったのは最初のうちだけで、
独りで居るとだんだんと、
それこそ寂しいあまりに悪いことしか考えられない。
大まかに言えば、
仲間はずれになってたの、面白くないと拗ねただけのこと。
誤解されても執り成しもせず、
朗らかに笑ってたイエスに比べて、私はなんと狭量かとか。
しまいには、
こんな風に可愛げのない私なぞ、
そのうちイエスに疎まれるとまで想いが至り、

 「〜〜〜。////////」

そんな痛々しい自分への、これも罰だと思い切ると、
すうと深く息を吸い込んでから。
此処なりの用向きがあって居た訳じゃあない場所、
そのまま立ち上がると、
薄い合板の扉にはむしろ仰々しいスライド鍵を開錠し。
がちゃりとノブを回し開ければ、

 「ぶっだぁ。」

今日は座り込みまではしていなかったらしいイエスが、
それでも泣き出しそうに目許をたわめ、
やっと出て来たこちらを見やるから。

 「……ごめん。」

そんなお顔を見るのがいたたまれなくて、
腕を延べるとそのままぎゅうと、愛しい痩躯を抱きしめる。
そう、憎かった訳じゃあないのにね。
鼻先に触れる濃色の髪の冷たさと相反し、
懐ろへと抱いた身の暖かさに吐息が震える。
馬鹿だなぁ私と、
顔を伏せる格好になったイエスの首元近くで
もう一度深呼吸をすれば。
優しいばらの香りが かすかに届いてホッとする。
だがだが、

 「ごめんじゃないでしょ?」

そこも幼き人ゆえか、

 「ブッダが謝ることじゃないんでしょ?
  でもあの、私、察するのが下手で…。」

ねえ、どうしたの? ブッダ怒っちゃったの?
梵天さんと何か笑ってたんでしょって思ったなら、それは違うよ?と。
やはりそんな方向へとしか想いが及ばないでいたらしいイエスなのへ、
やたらと考え過ぎな自分が滑稽なような、
だが…それはそれで切ないような。

 “狡いなぁ、キミってば。////////”

紆余曲折があって当然と、
たくさんの蓄積からつい構えてしまう考え過ぎや思い過ごし、
その素直さで、それは容易く正してくれる。
こちらが恥ずかしくなっちゃうくらいの率直さで、
どんなに鎧っていようと関係なく、
たちまちのうち、
心の やわらかいところを剥き出しにされちゃったなら、

 “もうもう謝るしかないじゃないの。”

二の腕ごとという抱きつきようをしたものだから、
いつもと逆で、
イエスの側がこちらの背中へと腕を延べてしがみついており。

 「ごめんね、
  梵天さんはキミのこといっぱい知ってるもんだからつい。」

どんな子だったのかって訊いちゃったのと、
正直に吐露するイエスなのへ、

 「キミにだって
  子供のころの話の1つや2つくらいあるでしょうに。」

それと大差は無いはずと言いかかり、だが、

 “あ…。”

言い終わらぬうち、自分で気がついたのが、
この彼は、まだ幼いうちに神の子として目覚めてしまったのだということ。
子供らしいエピソードなぞ、記憶のうちに数える程もない身なのであり、
えっとぉと困ったように言い淀むイエスなのへ、

 「…ご、ごめん。///////」

先んじて謝ってしまうと、

 「またそれなんだもの。」
 「…うん。ごめ…ん」
 「ブッダ、私を甘やかし過ぎ。」

むうと口許が尖ってしまったキミは、
一体どうして、こんな風にどこか棘々しい自分たちだったかも
もはやどうでもよくなっているのかも知れない。
どっちが悪い訳でなし、強いて言えば、
知らないことがあったのが面白くないってだけのこと。
私がそうだったよに、イエスもまた、
私がどうして怒ったのかが判らないのなら

 “…お相子、かな?”

すぐにも骨が探れるちょっぴり薄いイエスの肩口へ、
おでこをぐりぐりと擦りつけて。
甘えるような素振りを示せば、

 “え?え?え?////////”

触れているところも含め、
かあっと真っ赤になっての熱くなる彼であり。
ああ可愛いね、こういうところも素直なんだからと苦笑しつつ、

 「あのね、」

こそりと、低めた声で彼へだけ届くよに囁く。
うんと頷いた気配と、
それと同時、ぎゅっとされた仕草に埋もれつつ、

 「焼きもち。」
 「…え?」

 「だから。焼きもちを焼いただけなんだ。」

大人げないことしただけで、だからゴメンなの。
イエスは何にも悪くないよと。
あ・オレンジの香りだと、
大好きな温みの中、
もっと安らげる匂いにうっとりしていたものの。

 「〜〜〜〜。///////」
 「…イエス?」

黙りこくったままなイエスが、微かに震えていると気がついて。
どうしたの?と、頬だけ傾けるよにして見上げれば、

 「〜〜〜〜〜。///////」
 「…イエス。キミ、なんで嬉しそうなのかな。」

口許がたわんでおいでのヨシュア様。
此処までの深刻そうだったあれこれはどこへやらで、
嬉しくて嬉しくてしょうがないという にやけっぷりは
もはや隠しようがないレベルであり。

 「だってサ、焼きもちってことは、
  私 ブッダからチョー好かれているってことでしょう?」

 「……チョーは辞めなさい、チョーは。////////」

何てまあ、くるくると感情の変化の目まぐるしいキミなことか。
さながら猫の目のようで、
しかも…自分にとっての甘い蜜を見逃さぬ鋭さよ。

 あぁもう、真面目に悩んで損しちゃった。
 あー、なんでそんなこと言うの。
 うん、そうだ、明日 神宮外苑まで出掛けよう。
 え、そんな早く?
 いいじゃない、行くって決めてはいたんだし♪

昨日のイエスの真似、
先に被害者になっちゃうことで、話をうやむやにするの術、
早くもモノにしていたらしきブッダ様で。

 「さあ、ご飯にしようvv
  あ、オムライス冷めちゃったかな、イエスの分、焼き直そうね。」

 「う、うんっ。////////」







     ◇◇◇



……という過程を経てのお出掛けと相成った二人であり。
自分のやや傍迷惑なマイペースはさておいて、
トイレへ引き籠もりまでしたブッダだったのが、
やけくそみたいに浮上したのが、頼もしいやら…不可解なやら。
実は今一つ判ってないイエス様だったりするらしく。(おいおい)

 “でもまあ、持ち直してくれたんならいっか。//////”

少し遠い青空にいや映える、
乾いた黄色が敷き詰められたプロムナードは、
さながら 印象派の絵画の中のようで。
時折子供がはしゃいで駆け抜けてゆくのも微笑ましいし、
お澄まししての てってってっと速足で進む
子犬のリードを引く親子連れとか、
どこかぎこちないながら、それでも指先だけつないだ若い男女とか。
誰もが思い思いに、大切な人と一緒なことを堪能しておいでなのが、
暖かいやら微笑ましいやら。

 「あ、」

予想より微妙に上をゆく壮麗さだったものか、
やや興奮しておいでのブッダが、おっとと足元をすべらせたのを、
すぐ後ろにいてすとんとお背
(おせな)を受け止め、転ばぬよう支えたイエス。

 「あ、えと…。////////」

やや下になって見上げて来たブッダが
たちまち真っ赤になったのは、人の多い場所だからだろうと、
体が傾いた分、Pコートの衿の中へ頬が埋もれそうになっている白いお顔を
愛おしげに見やってから、そのまま素早く起こしてやったが、

 『…ごめんね。』

ブッダが赤くなったのは、そんなことなんかじゃあなくて。

 『私、』

そも、今日の彼のテンションがやや高いことへの、
大いなる原因でもある、昨夜のやり取りを思い出したからに他ならぬ。

 『イエス?』

何だか微妙な行き違いとなってしまった二人。
完全に意志の疎通が成ったとは言えないながら、
そもそも感情的な齟齬だったのだし。
イエスへの負い目を勝手に感じたり、
そうかと思えば、
堅物で生真面目であるがゆえに飲み込めなかったささやかな機微、
勝手に恥じ入り、なのに察してくれないと
やっぱり勝手に駄々を捏ねていたようなものだと。
さすがは聡明な如来様で、
お怒りの鉾を何とか自力で収めたブッダへと。
ぎゅうと背中から抱きついた神の御子様。
そんなに怖かったのかな、ごめんねと
こっちからも謝ろうとしかかって、でも、
あんまり“ごめん”を連呼しても、却って責める格好にならないか。
そんな躊躇に足止めされてしまってのこと、
ボウルへ卵を割り入れる手を止め、他にと言葉を探してしまっておれば、


  『…私、キミの恋人なのにね。』







    『………っ?!/////////』


  いやあの、

  今、なんて言いましたか、あなた。////////



まだちょっと、ひりひりしていた胸のどこか。
それが何処だったかが、一瞬で判らなくなったほど、
一気に総身へと甘い熱が回ってしまったブッダであり。
ふるふるという震えがそれこそそちらへ伝わったものか、

 『え? 違うの?』

わたし、早合点しちゃってた?と、
此処で引かれるのは それこそとんでもない話。
もうもう気持ちや言葉の行き違いに振り回されるのはごめんだと、
慌ててかぶりを振ってから、
胸元に回されていた腕、こちらからも捕まえて、

 『……。///////』

うつむいたままながら、こくりと頷けば。
背中にくっついていたイエスの胸板が
ほっとしたように深い吐息で上下して。

 『なのに放っといちゃいけないよね。
  一番大切な人なのに。
  何よりも優先しなきゃなのにね。』

 『…う、うん。///////』

口許がうなじへ触れているらしく、
吐息が螺髪にも触れてか、ところどころでふわりと熱い。

 『気の利かない私なんかが 恋人でごめんね。』

 『い、いやあの…。///////』

うあ、何かなんか物凄いことを言われているのに、
胸が痛いほどの鼓動の音が邪魔をして、よく聞こえないよぉ、と。
ささくれ立ってのひりひりとは完全に別物、
今度は興奮してのドキドキにその胸を制覇され。
ふるるっと肩が震えたそのまま、
うなじのちりけもとから一気に頭頂まで、
甘いしびれが突き抜けて


 『………あ。///////』
 『わあ、////////』


螺髪にまとめられていたブッダ様の豊かな髪が、
一気にぶわっとほどけたそのおり、
丁度 背後に居合わせたイエス様がどうなったかは、

 ……まあ、大体ご想像の通りだったようでして。

どんなに険悪になりかけても、心配なんか要らないらしく。
こたびも割とあっさり通常運転にあっさりと戻れたお二人へ、
黄色いハート型に見えなくない木の葉が
はらりヒラリと降り落ちるのでありました。









    お題 E“入ってます”& F“その眸にやられました”






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  *あ、しまった、その眸を見てないや。(ダメじゃん)笑
   ワープロの不調に振り回されたので、
   いつも以上にぶつ切り文章で泣けて来ます。

   それはともかく

   ウチのイエス様は、
   こういう小っ恥ずかしいことをベロベロ言ってしまう困ったお人で。
   これだから“ガイジンはっ”とは、でもでも言えない。
   だってブッダ様も 外人だもんね。(何を言うとるのだか…)


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

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